幻想のミクロ

 私が大型カメラでミクロの世界を撮り始めたのは1973年の初めでした.
 当時は、工業写真を撮っていたので金属を写すつもりでしたが、偏光顕微鏡で見た結晶の美しさに引き込まれてしまいました。再結晶してゆく時の幻想的な世界を見たとき、それは私にとって正に衝撃的な体験で、それ以来、ものの見方や配色についても大きな影響を受けています。
 その後、撮影対象は、薬品から鉱物、金属、LSI、液晶へと広がって行きましたが、いつも驚かされるのは、凝視しても見えない小さな点の中にも、美しい抽象の世界があること、そしてミクロとマクロの形がどこか似ていることです。

 しかし、標本作りのノウハウが書かれた本はなく、失敗や試行錯誤を繰り返しながら、偶然新しい技法を発見したこともあります。
 薬品結晶の場合、溶剤や熱で溶かし、それを再結晶(正確には溶剤をとばす)させて標本を作りますが、二度と同じものは出来ません。
そこが結晶の面白さかも知れませんし、標本の回転やバビネ型コンペンセータ(遅延板)の使用により、自由に干渉色を変えられるのも魅力です。

 なお、薬品結晶、岩石、液晶などは透過光で見る偏光顕微鏡を使い、金属、LSIなど反射光で見るものは、金属顕微鏡や反射型微分干渉顕微鏡を使っています。また、水晶、ダイヤモンドなどの表面は、光が通さないようにアルミを真空蒸着し、反射型微分干渉顕微鏡で撮影します。

 現在、これらの写真は、PR誌、本の装丁、カレンダー、パッケージ、大型陶板、テキスタイルなど、私たちの身近で広く使われていますが、自然そのものを写し出したこれらの写真は、これからも多くの分野で使われて行くことでしょう。