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鷺沼教会月刊誌 Communio (コムニオ 一致)

2006年3月号
旅立ち
長崎・大浦天主堂の聖母
長崎・大浦天主堂の聖母
主任司祭 小坂 正一郎
 
母はこれらのことをことごとく心に留めていた
 過越しの祭りの務めを終え、いよいよ我が家に帰る段になって、12歳のイエスはエルサレムに留まり、必死になって探している両親を尻目に、神殿の境内で学者たちと議論を交わしています。そのことをとがめだてする母に向かってイエスは「私が自分の父の家にいるのは当たり前だとご存じなかったのですか」と答えます。ルカはこのエピソードを締めくくりながら「母はこれらのことをことごとく心に留めていた」(ルカ2:51)と書きとどめています。
 聖地巡礼に参加した折、すばらしい黙想と祈りを伴うガイドをして下さった神父様は「あの丘は『身震いの丘』といわれます。ナザレの会堂にいた人が大いに憤り、立ち上がって、イエスを町の外に追い出し、町の立っている山の崖まで連れて行き、突き落とそうとした(ルカ4:9参照)のがあの台地のはずれのところで、それを見たマリア様が恐怖のあまり身震いしたと言われています」と説明して下さいました。
 その時まであまり考えても見ませんでしたが、聖ヨセフの亡きあと、イエスとマリアの家庭に別れの時が訪れ、救い主としての使命に邁進すべく、イエスはナザレの我が家をあとにされたのだ。いつかその時が訪れるのだとイエスについて思っていたことが、今こそ現実になって、救い主の使命を始められる姿に、母はその後ろ姿を深く心に留めておられたことだろうと黙想しました。

ヨハネ、お前はこの家を出ておいき
 「牧畜や農業をする者にとって学問は必要ない」という信念で生き抜いてきたヨハネ・ボスコの義兄アントニオにとって、司祭になろうとする夢をもって、余暇を見つけて一心に文法書やラテン語の入門書を紐とくヨハネの姿は腹に据えかねるものがありました。それまでもしばしば争いの絶えなかったこの兄弟の姿を見かねた母マルゲリータはついに意を決して、ある夜、「ヨハネ、お前はこの家を出ておいき。どこかで農家の仕事を探せたらよいが、もしなかったらモンクッコのモーリアさんを訪ねなさい。早いようだが明日にでも発ったがいいよ」2枚のシャツと1冊の本の入った袋を担ぎ、これから遭遇する他人の家の生活の不安、神父になりたいという自分の夢とはかけ離れた方に進んでいるような境遇の非情さをかみ締めながら、涙で見送る母マルゲリータの姿を背後で感じつつ、その苦しみの世界に向かって重い足を運ぶのでした。時に1829年2月の寒い朝、ヨハネ13歳の時でした。それから続く2年近くのモーリア家での生活と労働について、ヨハネの心深くしみこんだ涙の日々は思い起こしたくもなかったのでしょうか、彼の自叙伝にはその間のことについて一言も触れられていません。(ドン・ボスコの生涯P41)

よろしくお願いします
 司祭として結婚式に立ち会う時、いつも感激する一つの場面があります。新郎が入場して入り口の方にを向きなおり、そこで新婦の入場を待ちます。音楽に合わせ新婦は喜びにあふれる面持ちで皆の前にそのすばらしい姿を現してきますが、多分今まで一度もなかったのではないかと思われる、お父さんの腕を握りしめながらの入場です。お父さんはわが娘とこのような形で人前を歩み進むのは初めてでしょうか、面映いようで、また、心の複雑さを顔面にあふれさせて進み行きます。司式者として、正面壇上でこの行進を見ながら私は自然とお父さんの方に目が行きます。
 そして、いよいよ正面に向かい合ったとき三人は深くお辞儀をして、新婦は父親の腕から離れ、新郎のもとに進み行くのです。この一連のセレモニーこそ結婚式における一番印象的で象徴的な場面だと思います。三人三様に心の内で「よろしくお願いします」と頭を下げるとき、いままでの生活から新しい人生が開かれていきます。

主の山に登り ヤコブの神の家に行こう
 人間誰しも別れるということは苦しいものです。今まで生きてきた環境、交わり、きずなから新しくそれを作り上げていかねばならない難しさと、苦しみに対し誰しも二の足を踏みたくなります。しかし、私たちは常に高みを目指していかねばなりません。「主の山に登り、ヤコブの神の家に行こう。」(イザヤ2:3)の精神は常に私たちの心を高めてくれます。その時、別れの苦しみも受容でき、新たな世界に雄飛していくのも可能になります。取り残された者にとっても寂しさに襲われます。その時こそマリア様にならった「心に留めおられた」生き方こそ大切なものです。

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