私の周りはとても賑やかで華やかで、明るい色に溢れていた。

そんな明るく華やかな3年Z組の教室の隅が、私の居場所だった。

 

 

皆の声をぼんやりと聞きながら文庫本を読み進める。

別に友達がいないわけじゃない、3Zのみんなとはそれなりに仲も良い。

単に私はみんなみたいに目立つ存在ではないというだけなのだ。

 

 

午後の授業って眠いよわね、という声が耳に届いた時ぶわりと風が窓から吹き込んんだ。

机に置いていた栞が風に攫われ、あ、と声が小さくこぼれた。

 

手を伸ばしても届く事は無く、栞は校舎の外へと飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

、また明日ネ!」

「うん、ばいばい神楽ちゃん」

授業が終わり、荷物をまとめていたところにやってきた神楽ちゃんと挨拶を交わす。

飛び跳ねるように教室を出て行く彼女を目で追ってから鞄の中に入れた文庫本に目をおとす。

 

「…そういえば」

 

 

 

校舎から出て中庭へ移る。

私の栞はたぶん、この辺りに飛ばされたはず。

上から落ちたわけだから木に引っ掛かってる可能性も考えられるよね。

 

「はぁ……とうっ!」

ドカッと木の幹に回し蹴りを一発。ほんの数枚、葉が落ちただけで目当てのものは降ってこない。

 

 

「え、ちょ、さん!?」

「えーっと、なに…してるの…?」

 

 

代わりに飛んできたのは、二年の時に同じクラスだった男子の声だった。

普段はこんなことせず大人しくしていたせいか、二人の顔は驚愕の表情で固まっている。

 

「…えと、ちょっと探し物してて」

「思いっきり木蹴り飛ばしてましたよね!?どういう探し物なんですか!?」

男の子の一人、新八くんにツッコミ調で尋ねられ、栞の特徴を簡単に説明する。

 

 

 

「なるほど。でも窓から飛んだんじゃ、この辺にあるとも限らないんじゃない?」

もう一人の男の子、山崎くんが辺りを見回しながら悩むようなポーズで言う。

「うん…だからちょっと探して、見つからなかったら諦めようと思って」

ぽそりと呟くように言うと、ふたりは顔を見合わせてにこりと笑った。

 

 

「手伝いますよ」

「俺は風紀委員の集まりあるけど…行ってもどうせ副長に怒られるだけだし」

こっちの方がいいやと言って笑う山崎くんに「それでいいの!?」とツッコむ新八くん。

 

 

「ほ、ほんとにお手伝いお願いしてもいいの?」

「もちろん!」

じゃあ僕はこっち探すね、と芝生の方へ向かう新八くん。

山崎くんはさっきの私みたいに木を揺すりながら探してくれている。

 

 

ありがとう、と二人に言って私も見落としているところはないか辺りを探す。

そういえば二年の時に二人と同じクラスになって以来、こうやって喋るのは久しぶりだ。

 

 

 

しばらく探していると山崎くんに名前を呼ばれた。

 

ちゃん、もしかしてあれじゃない?」

木の上に引っ掛かったそれは、まぎれもなく私がさっきまで使っていた栞。

 

 

「あ…うん、あれだよ!見つけてくれてありがとう」

さっきは諦めてもいいと言ったけれど、やっぱり愛着はある。

お礼を言って笑うと、山崎くんは視線をあちこちに移しながら、うん、と小さく頷いた。

 

 

「でもどうやって取ったらいいか…。木を揺らしてみたりしたんだけど落ちなくてさ」

困ったように木を見上げて顎に手を当てる山崎くん。

「何か物を投げて、ぶつけた衝撃で落とすとか」

どうですかと提案を持ち出した新八くんに二人で頷いてからふと思う。

 

 

「えと、何をぶつけたらいいかな…。私、今ちょうど良い物持ってないし」

投げてぶつけられそうなものが周りにも見当たらない。

 

「じゃあ新八くんのそれで」

「それって何だ!眼鏡か!眼鏡のこと言ってんの!?」

冗談冗談と笑う山崎くんに、これは渡しませんから!と叫ぶ新八くん。

 

やはり新八くんの本体は眼鏡だというあの噂は確かなんだろうか…。

さん今何考えてました?」

「ううん、何も」

 

 

 

そんなやりとりをしていると、昼休みに吹いたような強い風がびゅっと中庭を駈け抜けた。

スカートの裾を押さえていると新八くんが木の上を指差した。

 

「あっ、さん!栞が!」

「えっ」

ぶわりと風にあおられて空を舞うようにひらりと栞が飛ぶ。

今度は見失わないように後を追おうとした時だった。

 

 

すっと横を通り抜けていった山崎くんはタンッと地面を蹴り、ひらひら浮かぶ栞をパシッと掴んで着地した。

そしてくるりと私たちの方を振り返り、にこりと笑う。

 

 

「はい、ちゃん」

 

 

ぽかんとしたままの私の手にそっと栞を握らせてくれた。

「あ、ありがとう…すごいね山崎くん、びっくりしちゃった」

「これくらい近藤委員長でもできるよ」

「……」

冗談を言っている空気を纏っていない。

うちの学校の風紀委員は一体どんな超人集団なんだろうか。

 

 

「ていうか、さっきその運動神経発揮すれば取れたんじゃ」

「さすがにそこまでジャンプ力無いから」

思いついたことをぽつりと零した新八くんに山崎くんはすかさずツッコミを入れた。

 

 

 

「でも、二人共本当にありがとう」

もう栞を離さないようにぎゅっと両手で握る。

 

「どういたしまして、っと…俺はそろそろ風紀委員会行かなきゃだ」

やだなあと呟く山崎くんに頑張ってねと言うと照れたように笑って頷いてくれた。

 

 

さんはこれからどうするんですか?」

「私は教室に鞄を取りに行ってそのまま帰るつもりだよ」

「じゃあ僕と同じですね。教室、どこなんです?」

校舎の入り口に向かって歩きながら新八くんの問いに答える。

 

 

 

「私はZ組だよ。二人は?」

「えっ」

「えっ」

ぴたりと足を止める二人。

 

「僕も、Z組、で…」

「同じく」

 

 

ほんの少しの沈黙。

顔を見合わせ、頭の中に入ってきた情報を整理する。

 

 

 

「「「ええぇぇぇえええーーー!?」」」

 

 

結局出たのは、そんな驚きの声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

似たもの同士










(「え、ご、ごめんね!!」「ううん、僕こそほんっとごめん」「いや俺だってごめん…って何やってんだろね俺ら」)


 

 

 

 

 

 

 

あとがき

「3Zでジミーズより影の薄いヒロインでギャグ夢」というリクエストでした!ありがとうございました!

ほぼ全員ツッコミ要員なので、いつもよりギャグ要素が弱めになってしまってすみません!

でも書いてて思いましたけど、ほんと似た者同士な3人ですよ。気を抜くと口調が全員同じになりそうでした(笑)

2012/09/30